冷たい胸


※セシルが女体化してます。カインが酷い男です。苦手な方はブラウザバックお願いします。




 セシルがそっと手を伸ばすと、カインが直ぐさまそれを振り払った。こちらを振り向き、そういうのはナシだと最初に言った筈だと言い、非難の目を向けてくる。セシルは頷き、彼からほんの少し距離を離して歩き出した。本当は真隣に立って手を繋いだり、腕を組んで歩いてみたい。しかしそれを許されるのは彼の恋人だけなのだ。セシルは小さく溜め息をつき、地面の石ころを転がした。
「あら、セシルじゃない」
 見上げた先にいたのは、幼なじみのローザだった。こんな時に、よりによって一番会いたくなかった相手に遭わなくたって――神様は本当に意地悪だ。あからさまに嬉しそうな顔をするカインを横目で盗み見て、胸の奥がずきりと痛んだ。
「ローザ。どうしたの?こんな場所に」
「友達の家が近くにあるの。久しぶりね、学校はどう、虐められてない?」
「僕は大丈夫、ちゃんと通ってるよ」
「もう、まだ僕なんて言ってる。私でしょ、私。……あら、そちらは?もしかして恋人?」
「いや……その」
「――ただの友達だ。俺はカイン、宜しくなローザ」
 セシルが言いかけた言葉を遮り、カインはローザの前に割り込んで手を差し出した。なあんだ、やっとセシルにも彼氏ができたのかと思ったのに、と何処かつまらなそうに言いながら、彼女がカインの前に手を伸ばす。やめてお願い、僕のものに触らないで――セシルの心の叫びが聞こえる筈もなく、2人は手を握り合った。カインの横顔を見やる。憧れの女の子と握手しながら、彼は満足そうだった。カインにしっかり握られたローザの白い手を見るうちに、自分の中に黒い感情が湧き上がる。彼女の細い手首を切り落としてしまえたら……そこまで考え、慌ててその思いを振り払う。幼なじみのローザに対して嫉妬の炎をたぎらせる自分自身が情けなかった。熱いものが目尻にじんわり溜まってくる。2人から目を逸らし、今にも溢れ出しそうな涙を必死に堪えた。
 ローザと別れた後、セシル達は商店街を抜けて裏通りにあるいわゆるラブホテル街に入って行った。フロントを通さないホテルを選び、中に入る。部屋に到着するなり、カインは鞄をソファーに置いてブレザーを脱ぎ始めた。セシルが駆け寄り、彼の脱いだそれをせっせと畳んだ。カインは引き抜いたベルトを見下ろし、やがてセシルの頭先で囁いた。両手出せよ――すぐに彼の意図を察したセシルは体中が熱くなった。
 もっと、もっとその低い声で自分に様々な命令をして欲しい。ローザには絶対に出来ないような酷いことを沢山して、ぐちゃぐちゃにして欲しい。
 彼のベルトに拘束された両手を見下ろし、セシルは甘い吐息を漏らした。制服のスカートを乱暴に下ろされ、シャツのボタンを全て取られる。未熟で小さな膨らみを下着ごと掴み、カインが言った。
「お前ほんと胸小さいな。ローザなんて制服着てても大きいって分かったのに」
「ごめん……」
「それと、二度とローザの前で俺の側を歩くな。誤解されたら困るだろ」
「……うん」
 そのうち、下着の内側にカインの骨ばった手が滑り込む。強引に揉みしだかれ、セシルは立っていられなくなった。床にしゃがみ込んだ彼女の体を突き飛ばし、カインが上から覆い被さってくる。下腹部をさすられ、やがて手が下に伸び下着を足から抜き取られた。開いた両足の間に彼の体が割り込み、拘束された両手を頭上に押し上げられる。
「あっ……」
 カインのそれが侵入すると、セシルは無意識のうちに両足を彼の腰に絡めていた。頭が真っ白になっていく。感覚が麻痺していくようだった。
 行為が終わり、ベッドから抜け出したセシルは裸のまま鞄を漁った。ピルケースに入れた薬を取り出し、ペットボトルの水と一緒に嚥下する。カインがおもむろに起き上がり、セシルの方を一瞥して尋ねてきた。
「お前何してるんだ?」
「ピル、飲んでるんだ」
「ああ……そうか」
 ごろりと再び寝転がり、気だるそうな声で彼は言った。
「ちゃんと飲んどけよ。ゴム面倒だし」
「……分かってるよ」
 僕だって生の君が欲しいから――言葉を飲み込み、もう一度ペットボトルを口につける。寝息を立て始めたカインの背中を眺め、セシルはベッドによじ登った。背中に抱き付き、顔をうずめる。目を覚ました彼がこちらを振り向き、鬱陶しいとばかりに体を引き剥がしてくる。すかさずカインの下半身に手を伸ばし、萎えたそれを掴んで上下にさすってやると、固さを持ち始めたようだった。セシルは布団の中に潜り込み、立ち上がったものを躊躇なく口にくわえた。カインの呻く声が聞こえる。それだけで昇天してしまいそうだった。
 その時、ソファーにあったカインの鞄から着信音が鳴り始めた。彼は布団を剥ぎ取りセシルの顔を自分の股間から離させると、慌てて鞄から携帯電話を取り出した。
「もしもし。……ああ、分かった。大丈夫だ、暇してた。じゃあ後で」
 通話を終えたカインが不機嫌な顔を作りベッドにいるセシルを手招きする。近付くなり後頭部を抱えられ、唐突に口の中に彼のものを押し込まれた。
「んっ、ふ、んんっ」
「さっさと帰りたいから早くしろ」
 欲望をセシルの口に吐き出した後、カインは素早く服を整え、彼女を置いて部屋を出て行った。カインはいつもそうだった。セックスさえ終わればお前に用はないのだと、セシルを置き去りにして帰ってしまう。
 シャワーを浴びながらセシルは泣いた。体だけの関係でもいいのだと懇願したのが半年前。カインが隣の女子校に通うローザに気があることは知っていた。それでも、どんな手を使ってでも彼との繋がりが欲しかった。
 濡れた体をタオルで拭き取り部屋に戻る。机に置かれたピルケースを見て、不意に悪魔の囁きが聞こえてきた。飲むのをやめれば、どうなるんだろう――その先を想像し、ぞくりと体中を戦慄が走り抜ける。セシルは震える手でケースを取った。二週間分の薬が収納できるそれには、明日から8日間のピルがまだ入っている。ゴミ箱が目に入った。セシルはふらりと近付くと、ピルケースを手から離した。円柱のゴミ箱に音を立ててケースが落ちた。自分の中で、何かがぷつりと切れてしまったような気がした。
 いつの間にか携帯が鳴っていた。カインと同じ着信音だ。彼以外の名前は一切登録していない。自分に掛けてくる相手などごく限られていた。もしもし、と半ば予想していた声が電話先から聞こえてきた。セシルははい、と小さく言った。
「ごめんな、いきなり電話して。今どうしてるかなと思って」
「うん……構わないよ、フリオニール」
「……何だか声が暗いな。どうしたんだ」
「何でもない……」
 捨てられたピルケースを見て、セシルは涙を流していた。フリオニールの耳にも彼女のすすり泣きが聞こえたようで、動揺した口調で言った。
「今どこなんだ。待ってろ、すぐ向かうから」
「……三丁目の交差点の、コンビニ」
「分かった。すぐ行く」
 ぷつりと通話が切れた。セシルは涙を拭き取り、床に落ちていた制服を身に付けた。ホテルを出て、彼に伝えた場所に向かう。コンビニの前にあるポストにもたれかかっていると、五分もしないうちにフリオニールが現れた。息が荒い。全力で走ってきたようだった。
「セシル……大丈夫か」
「ありがとう。本当に何でもないんだ」
「そんなことないだろ。俺で良かったら、何でも話せって」
「……優しいね、君は」
 セシルはフリオニールのやや汗ばんだ胸に顔をうずめた。カインよりも分厚くて、温かい胸だった。フリオニールの両手がそっと背中に回される。慈しむように頭を撫でられ、何故自分はこの優しい胸よりカインの冷たい胸を選ぶのだろうと考える。理由など到底分かる筈もなかった。人が人を欲する感情は理屈じゃないのだ。
 カインを狂おしい程に愛している――フリオニールに抱かれながら、別の男のことを考えている。自分は最低な人間だと自嘲して、一方では残酷な快感が湧き上がってくる。どこまでも優しいこの人をズタズタに傷付けてしまいたい。自分の闇に引きずり込んでやりたい。セシルの中で、どす黒い欲求が渦巻いていた。
 フリオニールの躊躇いがちな口付けを受け入れながら、セシルは先ほどのピルケースに思いを馳せた。
 カイン、僕は君を一生離さない――ポストに佇んでいた漆黒の鴉がばさりと飛び立ち、セシルの想いを彼の元に運んで行った。



END




ヤンデレなセシルは怖い…。
カインを酷い男キャラにしてみたい!という思いだけで勢いのまま書きました。

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