SFCゲーム「ライブアライブ」のネタバレを含みます。ご注意ください。


ライブ・アライブ



 ライトから手渡された二冊の冊子。表紙にはそれぞれ“魔王”“モーグリとゆかいな仲間たち”と書かれていた。パラパラと捲ってみると、冊子の中身が演劇の台本だということが分かる。
「これ何なんッスか?えっと、あのよでおれにわびつづけろ〜?」
 一つの場所に留まっていられないティーダが、ボールをリフティングしながら台本を読み上げる。
「それは来月の学園祭で我々が行う演劇の台本だ」
 ガーデンでは毎年9月に学園祭が開かれる。ガーデンはその性質上ともすれば危険な戦闘集団だと周囲に思われがちなので、学園祭という誰もが楽しめる形で一般公開することによって、ネガティブなイメージを少しでも払拭するのが狙いらしい。
 SeeDもまた毎年何らかのパフォーマンスをする。去年は剣と魔法によるダンスを披露し、それなりに注目を集めた。ライトによると今年の出し物が演劇に決まったのは皇帝の一存だという。理由は至って単純で、皇帝が最近観劇に嵌っているからSeeDにもやらせてみようと思った、だそうだ。台本を眺めながら、タンタラスという一般劇団にも所属しているジタンが言った。 
「なあ、異なる台本が二冊あるってことは2つの演目をやるんだよな?どっちもそれなりに長い話だし、両方を並行してやるのは結構大変だと思うぜ」
「心配ない。大人向けの“魔王チーム”と子供向けの“モーグリとゆかいな仲間たちチーム”に分けて練習を行う」
「そういうことか。それなら早速配役を決めなくちゃな」
 “魔王”とは、魔王にさらわれた王女アリシアを勇者オルステッドとその親友のストレイボウが共に助けに向かうという物語である。魔王山の山頂で、罠によって親友のストレイボウは死んだ。さらにオルステッド自身も罠にはまり、王殺害の犯人に仕立て上げられ、今まで自分を勇者だと慕ってきた者達は一転してオルステッドを魔王だと蔑み、彼は反逆者の汚名を着せられた。それでも愛するアリシアを助けたい一身で再び魔王山に登る決意をしたオルステッドだが、山頂にたどり着いた時彼を待っていたのは死んだと思われていたストレイボウだった。オルステッドに劣等感を抱いていた彼は自分が黒幕だと明かし、1対1の決闘を申し込む。死闘の末、オルステッドはストレイボウに打ち勝ったが、アリシアはオルステッドを責め立てた。なぜあなたは助けに来てくれなかったの。私を助けに来てくれたのはストレイボウよ。アリシアの心は既にストレイボウに傾倒していた。ストレイボウの後を追うように彼女は自害し、親友も、守る者も、信頼も、全てをなくしたオルステッドは絶望に打ち拉がれた。心を憎悪に支配された彼は、やがて自らをこう名乗った。“魔王”、と――。
 一方“モーグリとゆかいな仲間たち”は、主人公のモグくん、雪男のウーマロくん、チョコボのボコくんの三匹で、何でも願いを叶えてくれるというクリスタルを探す旅に出る物語である。モグくんの恋人であるモルルちゃんにもらった御守り(モンスターが嫌がる匂いを放っていた)をゴブリンに盗まれてしまったため、クリスタルへの道は前途多難なものとなった。楽して宿屋に泊まりすぎためにギルが底を尽いてしまい、体力の消耗をおさえるためモンスターに幾度となく襲われるその度に三匹は逃げ回った。モグくんは戦闘能力こそ今一つなのだが、ずば抜けた商才があった。モンスターから逃げ回るうち、自分達のこの経験を商売に生かせないかを考えるようになる。 そこで思い付いたのが、“けむりだま”という画期的な商品だった。これは戦闘から素早く消え去ることのできる薬で、忍者と共同開発の末、一般向けに商品化した。こうしてモグくんは大金持ちになり、クリスタルなどに頼らなくても人は努力さえ惜しまなければいつか必ず大成功を掴めるのだと証明したのだ。めでたしめでたし。
「……なんか……これって……」
「魔王はともかく、モーグリの話って本当に子供向けなのか?」
「とりあえず魔王は子供に見せるべきじゃないな」
「結局クリスタル関係ないね」
 ざっと台本に目を通したSeeD達が口々に感想を言い合っていると、突然教室の扉が開かれ皇帝が入ってきた。
「虫けら共よ、配役は決まったか」
「皇帝!何でお前が……」
「教えを請う立場の虫けらが教師に向かってお前だと?フリオニール、貴様はいつからそんなに偉くなったのだ」
 生徒を虫けら呼ばわりする教師に言われたくないと誰もが思ったが、反論するのもまた面倒なので受け流す。皇帝が何かを言っているが敢えて聞かなかった振りをして、皆は輪になって座り込むと、配役を決めるべく相談を始めた。
 真っ先に決まったのはモグ役だった。ティナが自分から立候補したのだ。紅一点には王女アリシア役を任せるつもりだったが、彼女の懇願を断れる男がいる筈もなく、全員一致でモグ役はティナに決まった。ボコ役は普段からチョコボ頭と揶揄されているクラウドを半ば強制的に、また雪男のウーマロ役にはティーダ自らが名乗りを挙げた。彼は雪男の喋り方が気に入ったらしい。一方で、魔王のキャスティングは揉めに揉めた。勇者オルステッドは最終的には魔王となる悲劇の主人公である。物語の核になる重大な役だけあって、自分からやりたがる者は誰一人現れなかった。
「ったく……こうなったら多数決だな」
 両演目の演出と監督を兼任することになったジタンが、伝家の宝刀を抜いた。少数派意見は有無を言わさず斬り捨てるという理不尽極まりないシステムだが、これしか方法がないのも事実。脇役は後で決めるとして、とりあえずは主役級の三人――オルステッドとストレイボウとアリシア――を多数決で決めることになった。各人に紙が配られ、それぞれの役に相応しいと思う名前(なおティナ、クラウド、ジタン、ティーダは除く)を各々書いた。回収した紙を基に、ジタンがホワイトボードにそれぞれの役名と挙げられた名前、その数を書き込んでいった。
「決まったな。待ったはナシだぜ」
 ジタンは頷き、それぞれの役に決まった名前に○をつけた。ちなみに結果は以下の通りだ。

【オルステッド】
・ライト…7票
・フリオニール…1票
・セシル…1票 
・スコール…1票 
【ストレイボウ】
・フリオニール…4票
・スコール…3票
・ライト…3票
【アリシア】
・セシル…5票
・オニオン…2票
・バッツ…2票
・ティーダ…1票

「オルステッドがライト、ストレイボウがフリオニール、んでアリシアがセシルな。残りは俺が配役する。OK?」
「まっ待ってよ!僕がアリシアっておかしいだろ!」
「おっ俺だってストレイボウって……俺は親友を裏切るようなマネはしない!」
 皆が賛同する中、セシルとフリオニールの2人だけが異議を唱えた。しかし多数決に参加した以上は覚悟の上だったのだろうとライトに言われ、返す言葉もなくしぶしぶ了承したのだった。準備に動き出した仲間たちをしり目に、フリオニールは嘆息しつつ魔王の台本をパラパラと捲った。そして、とんでもないシーンを見つけたのだ。
 “ストレイボウはアリシアを抱き寄せ強引に口付ける。しばらくアリシアは抵抗するが、次第に自らもストレイボウの背中に手を回し、熱い口付けを交わし合う。”
 フリオニールは白目を剥いた。更に台本を細かく読み込んでいくと、ストレイボウとアリシアの情事を思わせるようなシーンもあった。しかもアリシアは冒頭でオルステッドとのラブシーンもある。対象が大人向けの劇とはいえ、これは――。
 フリオニールは頭を抱え込み、その姿勢のまま隣の方に顔を向けた。案の定というべきか、台本を手にしたまま、硬直しているセシルがいた。女装させられた上に2人の男とラブシーンを演じなければならないセシルの気持ちを慮ると、自分はまだマシかもしれないとフリオニールは思った。一方主役のライトは何事もないかのように台本をぶつぶつと読んでいる。ブレないのか、それとも単に鈍感なだけなのかは知らないがあの精神力は羨ましい。フリオニールは大きく息を吸って吐いた。よし、と自らに気合いを入れる。采が投げられた以上、もう覚悟を決めるしかないのだろう。



***



「フリオニール!そこはもっと情熱的に!」
 放課後の教室に、鬼監督と化したジタンの怒号が響き渡る。今は魔王チームとモーグリチームに分かれてリハーサル中なのだが、いかんせん魔王チームの練習が遅れていた。演技自体はジタンの指導と本人達の練習の甲斐あってそれなりに上達したが、ラブシーンになるとセシルとフリオニールは揃ってぎこちない演技に逆戻りしてしまうのだ。
「ははっ!相変わらずだな〜あいつら」
 幸運にも村人A役に決まったバッツが鬼監督に話し掛ける。脳天気な友人にジタンは肩をすくめ、やれやれと両手を挙げた。
「ああもう、この前から殆ど進んでないぞ!」
 この前というのは3日前の出来事である。オルステッドとアリシアのラブシーンの練習中に事は起こった。2人が熱い抱擁を交わしキスするシーンがあるのだが、ジタンの言った“分かってると思うけど演技で良いから”の意味を全く分かっていなかったライトが、律儀にもアリシア、つまりセシルの唇に接吻したのだ。不意打ちのそれに驚いたセシルは顔を真っ赤にしてその場から逃げ出してしまい、皆で一時間ほど探し回る羽目になった。それでもなおセシルが逃げた理由を理解していないライトを見て、「セシルには悪いけどアリシアがティナじゃなくて良かったぜ……」とジタンはげっそりした顔で呟いた。
「セシル!フリオニール!お前達はいい加減慣れてくれよ!別に本当にキスしろって言ってるんじゃないんだからさ〜!俺なんてタンタラスでオカマの役やった時、ほとんど素っ裸で男と抱き合ったんだぜ」
「う、うん……分かってるけど……やっぱり女の人の言葉に慣れなくて……」
「俺も……愛のセリフなんて誰かに言ったことないし……」
 照れる2人は互いに顔を見合わせ、ねえ?なあ?とうなずき合った。お前達は女子か!と叱ってやろうとしたその時、ライトがずかずかと2人の元に歩いていった。彼はフリオニールの方を振り向き、肩を掴んで言った。
「フリオニール、よく見ているんだ。キスとはこうやってするものだ」
「えっ、ちょっと、待って、うわああああ!」
 唇と唇が触れ合う寸前で、ライトの動きがピタリと止まった。フリオニールは半泣きで目の前に迫ったライトの顔を凝視している。彼はフリオニールを解放すると、何事もなかったかのように踵を返し、元の場所に戻っていった。
「分かっただろう、さあやってみるんだ」
 よく通った声でフリオニールに呼び掛ける。やってみろと言われてすぐに出来るのならばこんな苦労はしていない。益々どうしたら良いのか分からなくなったらしく混乱するフリオニールを見て、この先の前途多難を想像すると、ジタンは疲労が倍加する思いだった。
「俺、監督やめたい……」
 彼の零した呟きは、和気藹々と練習を進めていたモーグリチームの笑い声によって虚しくかき消されたのだった。



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