3 最初に目を覚ましたのはカインだった。顔に張り付いた髪を後ろに払い、頬をかきながらおもむろに起き上がる。 汗と精液でぐちゃぐちゃの床を見て、はっとなった。昨夜の行為を思い出し、それからベッドの上で体を丸くして眠るセシルと、ベッドサイドに凭れて眠るフリオニールを交互に見る。反対側にあるもう1つのベッドの掛け布団を引き剥がし、セシルの体に掛けてやると、カインは部屋を出てシャワーを浴びた。べたついた体を洗い流し、適当な部屋着に着替え、鏡の中の自分を見た。 「……俺は一体……何をした」 自分に向かって問い掛ける。今更後悔しても遅いのは分かっている。だからといってすぐに開き直ってしまえるようなお気楽な性格ではない。 部屋に戻ったカインは素っ裸で鼾をかくフリオニールを叩き起こした。引き出しから彼の服を抜き取り、着るように促す。寝ぼけ顔のままもぞもぞと下着を履いていたフリオニールは、ふと床の惨状を見て、昨夜のことを思い出したようだった。カインと目が合い、互いに気まずそうに視線を逸らす。 とりあえずセシルを寝かせてやりたかったので、床の掃除は後回しにして2人はダイニングに移動した。カインは冷蔵庫からボトルに入った炭酸水を取り出し、直接口につけてごくごくと飲んだ。フリオニールはシャワーを浴びてくると言ってその場を後にし、半時間ほど経つと濡れた頭にタオルを乗っけて戻って来た。 「……おはよう」 「……ああ」 もう昼前だ、と思いながら、2人は短い挨拶を交わした。 丸い小さなテーブルを囲み、カインとフリオニールは向かい合わせに座った。コップに入った牛乳を一気飲みし、フリオニールは隣の部屋に聞こえない程度の声量で、目の前のカインに話し掛けた。 「なあ……結局セシルって何者なんだよ」 「平たく言えば男娼。それも皇帝様お抱えの」 「皇帝って……あの暴君か?」 「多分だけどな。どうやら王宮から逃げてきたらしい」 「そうだったのか……どうりで……」 「どうりで、何だ」 「いや……だから……何というか」 「ああ、初めてのお前に対する手ほどきは見事だったな」 「うるさい!……それで、これからどうするんだ?」 「アイツ、ああいうこと以外何も教わらんまま育ったらしい。ろくに言葉も知らないし、食べ方だって知らなかった。ここを出ても、きっとまたどっかの男の家に転がり込んで同じような状況になるぜ」 「それは……まずいだろ」 「とりあえずここに置いてやればいい。ただしもう手は出さない。いいか、俺もお前も昨夜はどうかしていた。兎に角、セシルには“普通の生活”を教え込んでやる必要がある」 「ああ、分かった。それがいいな」2人はうん、と頷きあった。 寝室の扉をそっと開く。セシルはまだ目を覚まさない。忍び足で部屋に入り、とりあえず濡らしたタオルで床の汚れを拭き始めた。ううん、と唸り寝返りを打ったセシルは、布団を抱き締め、掠れた声で寝言を呟く。 「こうて……へい、か……」 仮定が確信に変わった瞬間だった。やはりセシルは、皇帝の――。しかし逃げてきたということは、余程辛い目に遭ったのだろう。どういう経緯があってそうなったのか知りたかったが、聞けばセシルは傷付くかもしれない。今は自分達がやるべきことだけを考えていれば良い。 結局、夕方になるまでセシルは目を覚まさなかった。料理担当のフリオニールがキッチンで野菜を手際良く切っていると、寝室に繋がるドアが静かに開いた。ダイニングテーブルに肘をつき、小説を読んでいたカインは扉の方を振り仰いだ。シーツにくるまったセシルが、目を擦りながら入ってきた。 「いい匂いがする……もしかしてシチューを作ってるの?」 「今日は違う。フリオニール特製の温野菜のサラダと、それから……何かだ。それよりセシル、とりあえずシャワー浴びてこい」 「ああ。分かった……昨日の場所だね」 覚束ない足取りで、ふらつきながらバスルームに向かう。カインはため息をつき、それからセシルに駆け寄った。バランスの悪い体を支えてやり、一緒に部屋を出る。 脱衣所に着いた所でカインは踵を返そうとした。しかし後ろから手を引かれ、戸惑った。 「ありがとう」 セシルはカインの首に両手を回した。駄目だセシル、離すんだ。その一言がどうしても言い出せず、結局カインはセシルのキスを受け入れた。下半身に熱が集まる。これ以上はまずい、と、セシルの体を引き剥がした。彼はバスルームに入っていった。 唇をさすりながら、今夜、またも今の調子で誘われて、自分はちゃんと拒めるのかと不安になった。 「カインどうした?顔が赤いぞ」 「いや……何でもない」 「ふうん。あっそうだ、お前さっき献立忘れてただろう。言ったじゃないか、メインは魚介のワイン蒸しだって」 「すまん。頭から抜け落ちてた」 カインは椅子に腰掛け、テーブルに顔を伏せた。調理の音に混じりシャワーの音が耳に入る。セシルの裸を思い浮かべ、慌ててそれを掻き消した。 その場にじっとしたままシャワー音を聞いていると、頭が狂いそうだった。かぶりを振り、カインは立ち上がると寝室に向かった。床と同じく汗や精液で汚れたベッドシーツを替えなければ。ベッドの前に立ち、皺だらけのシーツを勢い良く引き剥がす。この上でもセシルと何度となく交わった。従順に、時にねだるように自分にすがりついてくる姿を想起し、カインは逃げるように寝室から立ち去った。廊下に出てシーツを洗いものの籠に押し込む。 だめだ、どこにいても何をしても、昨夜の情事を思い出してしまう。二度と手を出すまいと偉そうに提案した張本人がこの様ではどうしようもないとカインは自嘲し、ため息をついた。 ダイニングに戻ると、フリオニールは鼻歌混じりにサラダを盛り付けていた。自分と違い根が純粋な親友は、既に昨夜のことを割り切っているようだった。フリオニールの真っ直ぐな性格が羨ましい。同居を始めてから、様々なルールを2人で決めた。カインは時々破ってしまうことがあるが、フリオニールはルールを律儀に守り、一回も破ったことがない。 扉が開かれ、シャワーを浴びたセシルが戻ってきた。今日は渡した衣服をちゃんと着てくれたようだった。カインの隣の椅子を引き、セシルが腰掛ける。石鹸の香りがふわりと漂い、どくんと心臓が高鳴った。 「よし、できた。早速食べようぜ」 フリオニールが料理を盛り付けた皿をテーブルに並べ始める。セシルは物珍しそうに皿に盛られたものを見て、これは何、そっちは何と、一つ一つの食材をフリオニールに尋ねていた。 フォークとナイフを手渡されたセシルが例によって戸惑った顔をする。フリオニールが何かを言いかけたのを遮り、カインはテーブルから立ち上がると、セシルの斜め後ろに屈んで立った。 「セシル、今日から自分で食べてみろ。普通は子供でも自分の手で食べるんだぜ」 「でも、よく分からないんだ」 「こうやるんだよ。ほら」 カインは背後から腕を伸ばし、セシルの手を取り、フォークとナイフを握らせた。後ろから体を密着させ、重ねた手を動かし、見本を見せる。鈍いフリオニールも流石に意図に気付いたのか不審な目を向けていたが、これ位なら構わないだろうと開き直った。 食事を終えると、寝室の中央にあるテーブルで、2人はセシルに世の中の常識や、様々な言葉を教えた。セシルは飲み込みが早く、1を聞けば10を理解しているようだった。穏やかな時間が流れ、カインは平静さを取り戻していた。邪な心は消え去ったかのように思えた。そんな自分に安堵した。 就寝前になり、セシルがシャツを脱ごうとしたのをフリオニールが慌てて止めた。でも御礼が、と言いかけたセシルに首を振り、諭すように彼が言う。 「セシル、俺達は見返りなんていらないんだよ。大切な友達なら、無償で助け合うのが当たり前なんだ」 「友達……?」 「ああ。もう立派な友達だろ」 普通ならば照れくさくてとても言えないような台詞を臆面なく言いのけるフリオニール。つくづくお人好しで、純粋な奴だとカインは思った。セシルがフリオニールの言ったことを全て理解したのかは分からないが、脱ぎかけた服を元に戻した。寝る場所を決めることになり、カインはベッドをセシルに譲り、自分は床で寝ると提案した。 「そんなの悪いよ。僕は何処でもいいって」 「いや、そういう訳にはいかん。俺は床でいい」 「カイン、それなら俺が……」 「お前には家事全般任せっきりだからな。これ位のことはやらせてくれ」 結局、セシルとフリオニールの反対を押し切り、カインが床で寝ることになった。 シーツは一応敷いているが、やはり床は固かった。なかなか寝付けず、何度となく寝返りを打つ。しんと静まり返った真っ暗の部屋で、カインだけが起きていた。体を起こし、手探りでテーブルの上にあるランプを手に取る。明かりを灯すとぼんやりと淡い光が手元を照らした。小説の続きでも読むか、とおもむろに立ち上がる。不意に、セシルの寝顔が視界に入った。半開きの桜色の唇を見た瞬間、消えた筈の欲望が頭の中に逆流してきた。カインはランプをテーブルに置き、ベッドにふらりと近付いた。セシルの顔を覗き込み、柔らかいウェーブのかかった髪の毛を横に退かす。キスだけならいいだろう――。そう自分に言い聞かせ、セシルに被さり、口付けた。柔らかい唇の感触が、頭の芯をぼうっとさせる。口を離すと、突然セシルの目が開かれた。カインは動揺した。まずい、セシルを起こしてしまった。被さっていた上半身を起こしかけると、両手が首に回された。 「カイン……したいんだろ?」 耳元で囁かれる。その瞬間、僅かな理性さえ手放していた。 カインはセシルを連れて部屋を出た。家の裏口を出て、物置小屋に入っていった。明かりをつけ辺りを見渡す。ここならフリオニールに物音を聞かれることはないだろう。勝手だが、彼を裏切ったことを本人にはどうしても知られたくなかった。 セシルのシャツのボタンを外し、肌の感触を確かめながらカインは口淫をするよう求めた。 セシルは素直に頷き、腰掛けたカインの足と足の間に顔をうずめた。取り出したペニスに頬を寄せ、舌先で擽るように舐めたあと、おもむろに口に含む。 「ん……んむっ……」 自分のそれを懸命に奉仕するセシルの頭を撫で回す。直ぐにでも出してしまいたい衝動を抑え込み、長く緩やかに快感を堪能する。 「くっ」 やがて達しそうになると、カインはセシルの口にものを押し付け、欲望を吐き出した。飲みきれなかった精液が口の端から垂れ、セシルの顔を淫らに彩る。 壁に手を突いて立たせたセシルの尻の肉を割り開き、カインは後ろから挿入した。背中を舐め回し、手を伸ばして乳首を虐める。セシルの体が快楽に震え上がった。細い腰を押さえつけて小刻みに揺さぶり、セシルの顎を掴み後ろを向かせる。ちゅっと唇を啄みながら、なあ、とカインは囁いた。 「っ……今日の、ことは……フリオニールには、言うなよ……」 「んあっ……ん……なんっ……で?」 「いい、から……言うな」 セシルが小さく頷いたのを確認し、カインは抽送を速めた。目一杯押し込み、動きを止める。体を震わせ、中で弾けた。奥の奥まで自分のそれで満たしてやり、引き抜きながら、もう次のことを考えていた。セシルを前にしていると、情欲がとめどなく湧き上がってくる。 結局、その日も一晩中セシルを抱いた。もはや欲求を抑えることなど出来なかった。それからカインは毎晩のようにセシルを小屋に連れ出した。夜が明けるまで抱き合い、何事もなかったように次の朝を迎える。心も体も、セシルに骨抜きにされていた。 それでも、昼間だけは穏やかな日々が流れた。カインは最近、セシルに剣の扱いを教えている。セシルは筋が良く、どんどん上達する彼に剣術を教えるのは楽しかった。フリオニールには弓を習っているようで、そちらも狩りに出られるまでに上達したと言っていた。 不意に、今の生活がいつまで続くのだろうと、一抹の不安がよぎる。夕食後の恒例となった勉強会で、図らずも、我が国の仕組みについての話題が上がってしまったのだった。組織の一番上に皇帝がいるとだけ口早に言い、すぐさま、国で盛んな農業に話題を変える。しかしセシルは上の空で、皇帝、と何度となく繰り返していた。 「そ、そういえば今日は満月だな!」 セシルの思考を遮るように、フリオニールが大きな声で言った。椅子から立ち、窓のカーテンをずらして外を見上げる。雲一つない夜空に、ぽっかりと丸い月が浮かんでいた。 「ほら、お前達も見てみろ。綺麗だぞ」 本音を言えば天体など微塵も興味はなかったが、話題を逸らす為にもカインは大袈裟に立ち上がり、感嘆の声をあげた。そう言えば、セシルがこの家に来た日も満月だった気がするな――そんなことを考えながら、セシルの名を呼ぶ。 「セシル、来いよ」 「ああ。満月……か」 窓辺に立ち、セシルは2人に倣って空を見上げた。 月光に照らされた瞬間、どくん、と心臓が鳴り響く。セシルは頭を抱え、しゃがみこんだ。 「うっ……うう……」 「セシル!どうしたんだ」 「触らっ……ない……で……!」 肩に伸びかけたカインの手がその場で止まる。セシルは唸り、ゆらりと立ち上がると2人から逃げるように部屋を飛び出し、玄関から外に出た。カインとフリオニールはそんなセシルを後ろから追いかける。家の外の丘に立ったセシルの体が一瞬光り、衝撃波が辺り一面に走り抜けた。波動をとっさに腕でガードし、セシルの元に走り寄る。地面にどさりと倒れ込んだ体を起こし、肩を揺さぶる。しかし反応はなかった。口元に顔を近付け呼吸しているのを確認し、気を失ったセシルを抱きかかえ、所々煉瓦が崩れた家の中に入っていった。 ベッドに寝かせてやると、セシルは胸の辺りを掴み、苦しげに体を丸めて脂汗をかいていた。うう、と低い声で呻き、何かに耐えているようだった。 「セシル……いきなりどうしたんだよ」 「分からん。こんなのは初めてだ」 どうすればセシルを楽にしてやれるのか分からない。このまま、見守るしかないのだろうか。 半時間程が経った頃、家の外が騒がしいことに気付いた。辺りに民家はない筈なのに、何か祭りでもあるのだろうか。突然、玄関のドアが乱暴に叩かれる。フリオニールは廊下に出て、腰元に提げたナイフの感触を確かめながら慎重に玄関の扉を開いた。 「中に入るぞ」 甲冑を身に纏った兵隊が、当然のように中に押し入ってきた。おい、と一人の兵士の肩に手をかけると、ダイヤモンドのついた盾でこめかみを殴られる。暫くの間、痛みで体を動かせなかった。いつの間にか家中に入り込んだ兵士の一人が、カイン達がいる寝室の扉を開いた。 「いたぞ!」 その声を聞き、フリオニールは頭を押さえながら寝室に向かって駆けた。 「何だ、お前達は」 カインが突然の侵入者達を睨み付ける。やや気圧され気味に、兵士が答える。 「き、貴様には用はない。我々は貴様の後ろで寝ている奴に用があるのだ」 「何の用だ。怪我をしたくなければさっさと帰れ」 壁に立てかけてある愛槍を手に取り、構えを取る。カインは兵士の人数を数えた。これなら何とかなるだろうと目算し、セシルに攻撃の手が伸びないよう間合いを図る。 先制を仕掛けようと槍を振るい上げた時、兵士達が次々と倒れていった。兵士の山から現れたのはこめかみから血を流したフリオニールだった。ふっと笑い、カインは槍を床に下ろし、タオルを彼に投げつけた。 「大丈夫か」 「ああ。不意打ちでちょっと殴られただけだ」 「……しかし何なんだ、この兵士達は」 言いしな、圧倒的な力を持った何者かの気配を近くに感じる。カインの背に嫌な汗が一筋流れた。 フリオニールも同じ気配を感じたようで、一体このまがまがしいオーラの正体は何なのかと辺りを見渡す。セシルの呻きが一層大きくなった気がした。 「こんな場所にいたとはな」 冷酷な声色。2人が振り向いた先には、思いがけない人物が立っていた。我が王国の、暴君と名高い皇帝だった。凄まじい魔力を纏い、他者を寄せ付けない圧倒的なオーラがあった。カインは小さく舌打ちした。今の自分が戦いを挑んだところで、どう足掻いても勝ち目はない。 皇帝はベッドの上で悶えるセシルを見やり、ニヤリと笑った。 「ふふ、今楽にしてやろう」 杖をかかげ、何かの呪文を詠唱するとセシルの体を紫色の光が包み込んだ。何をする気だ!と、フリオニールがとっさに腰元のナイフを投げる。しかしそれは皇帝を覆うオーラに阻まれ、呆気なく床に落ちた。 程なくすると、セシルの額に浮かんでいた脂汗が引いていった。呼吸も正常なものになり、やがてうっすら目を開くと、おもむろに起き上がった。セシルはカインとフリオニールの方に顔を向け、そして部屋の入り口に視線をずらした。目を見開き、ベッドから立ち上がる。 「……皇帝……陛下?どうして……」 「決まっているだろう、お前を連れ戻しに来たのだ」 「でも……もう僕に飽きたと……」 「私は気紛れでな。一度は捨てた玩具でも、急に恋しくなる時もある。セシルよ、戻って来い」 皇帝のあまりに勝手な言い分に、やり場のない怒りがカインの体を包み込む。皇帝に向けて槍を構え、部屋中に響く大きな声で張り叫んだ。 「玩具だと、ふざけるな!セシルは渡さん!」 「……誰だ貴様は。渡すも渡すまいも、あれは元々私の所有物だ。愚民共、少し黙れ」 皇帝が手のひらをカイン達の方に向け、ぐっと拳を握り締める。突然体が浮かび上がり、息が苦しくなってきた。言葉を発しようとすればする程、呼吸が困難なものになる。セシルは皇帝に駆け寄り、2人に掛けた術を解くよう懇願した。 「私のもとに戻るのなら、解いてやろう」 「……分かった。でも、僕をもう捨てないで……」 「ふふ。お前が貴重な月の民だと分かった以上、手離すものか」 セシル、行くな――叫びたいのに声が出ない。自ら皇帝に体を寄せ、肩を抱かれるセシルに必死に手を伸ばす。2人の体を光が包み、瞬間的に姿を消した。新たな兵士達が部屋に駆け付けたのと同時にカインとフリオニールに掛かっていた呪縛が解け、床に音を立てて落下する。カインは痛がる暇もなく立ち上がり、兵士達を掻き分けて外に飛び出た。しかしセシルの姿は何処にもなく、後ろから駆けてきたフリオニールがくそっ、と地面を蹴飛ばした。 一人の兵士がこちらに近付いてくる。纏った甲冑の形が他の兵士とは違うことから、この中では最高位なのだろう。兵士は武器を下ろし、敵意のないことを示してからカインの前に立ち、言った。 「あんたら、悪いこと言わないからあれは諦めた方がいいぜ」 「……何だと……」 「あの子はさあ、幼い頃から皇帝陛下の為だけに生かされてきたんだよ。あの子だけじゃないが、王宮に連れて来られたら最後、みーんな魂が壊れちまうんだ。あの子は一生皇帝から逃げることは出来ない。そういう風に創られた人形なんだよ」 「……黙れ」 「えっ?何か言った――」 カインは兵士を力任せに殴り倒した。剣を奪い、不快なことを二度と語らせないために、口を目掛けて刃の先を突き立てる。寸前のところで後ろからフリオニールが羽交い締めし、抗う体を必死に抑え、漸くカインの手から剣が落ちた。 「カイン!落ち着け!」 「フリオニール。王宮に行くぞ」 「……今からか?」 「当たり前だ。セシルは渡さん……俺のものだ……」 最後の方はぶつぶつと呟き、何を言っているのか聞き取れなかった。とりあえず家に戻ろう、とカインの肩に手を掛ける。セシルをこのままにはしておけないのは確かだが、まずは作戦を立てなければ――。 しかし、月光に照らされたカインと目が合った瞬間、フリオニールは戦慄した。皇帝と対峙した時以上の、言い知れぬ恐怖を感じる。 「……お前……誰なんだ……」 親友の瞳には、底知れぬ深い闇が宿っていた。 epilogue 皇帝の寝所に入ったのは本当に久しぶりだ。また此処に戻ってきたのだとセシルは実感した。服を脱ぎ捨て、天蓋を避けながらベッドに上がる。皇帝に寄り添うと、頬を強く叩かれた。手間を掛けさせた罰だと言われた。 もっと大きな罰を与えてやろうと、皇帝が詠唱する。セシルの体を、滑った蛇のような生き物が這い上がり、やがて全身に巻き付いた。お仕置きしてもらえるのは、皇帝の興味が自分に向けられている証拠だった。セシルは素直に罰を受け入れ、体中に巻きつく触手が与える快感に身を任せた。今夜は抱いてもらえないかもしれないけど、明日はきっと抱いてもらえる――。触手が体内を犯し始め、一層淫らに悶えるセシルを眺めながら、皇帝は一人ごちた。 「ふん……やはりあの輩達は始末するべきだったかもな」 それを聞き、快楽の渦に朦朧となった頭で、2人と過ごした日々を思い浮かべる。 セシルの目から、一筋の涙が零れた。 END 満月の日に覚醒するネタは、TAのセオドアとかサイヤ人から拝借しました。 救いのないラストで申し訳ありません…。 戻る |
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