デュエリスト



 ガーデンの生徒達の間では専らカードゲームが流行していた。3×3のボード上に、四隅に数字の書かれたカードを隣合う数字を気にしながら交互に並べていくという一見すれば単純なゲームだが、これが意外と奥深い。様々なルールも併せればより一層ゲームを楽しめるため、カードマニアの生徒達は知恵を絞り、こぞって新しいルールを生み出していった。
 スコール・レオンハートもまたカードの魅力に取り憑かれた一人である。無口で孤高を気取る彼だが、カードバトルとなると熱い男に生まれ変わる。再来週にはガーデン主催のカード大会が開催されるため、授業後はひたすら強力なレアカード集めに勤しんでいた。
 レアカードを手に入れる方法は二種類ある。一つはレアカードを持った対戦相手を下して奪う方法。もう一つはカードにしたい相手に一定のダメージを与え、特殊魔法でカードを新たに生み出す方法だ。相手が強ければ強いほど生まれるカードも強力になる。つまりトップクラスの戦闘能力を備えたSeeDのカードならば最強というわけだ。
 食堂の一角でセシルとフリオニールが授業の復習をしていると、スコールとバッツがそれぞれコーヒーとオレンジジュースを手にしてやって来た。空いた椅子に腰掛け、バッツがセシルの手元を覗き込む。
「これさっきの授業のノートか?相変わらず真面目だな〜!」
「復習はマメにしないと。試験前に焦りたくないしね」
「それ、俺よりスコールに言ってやれよ。なあスコール」
 バッツはそう言い、渋い表情でコーヒーを啜るスコールの肩を叩いた。しかし成績優秀の彼にそのようなアドバイスは要らないのでは?と、セシルとフリオニールは首を傾げた。そんな二人の疑問を察したのか、バッツは不意打ちでスコールの鞄を奪い、中からカードの山と今日返却されたペーパーテストをテーブルに広げていった。スコールは慌てて隠そうとしたが、いつの間にか彼の真後ろに立っていたWOL――なお皆にはライトと呼ばれている――が、彼のテスト用紙を取り上げたのだった。
「スコール。これはどういうことだ」
 いつの間に来たんだよ!という4人の心の声はさて置き、ライトが厳しい視線をスコールに向けている。獅子はわざとらしく溜め息をついた。眩しいヤツには関係ないだろ、とふてくされ呟いたのを、人一倍聴覚に優れたフリオニールだけが聞いていた。
「150点満点中82点か。前回は146点だから、64点も下がっているな。法学は君の得意分野ではなかったのか」
「……なんで前回の点数まで……」
「私は決して点が下がったことを責めているのではない。努力してその結果なら、こんな事を言うつもりはない。しかし最近の君は何か別のことに心を捕らわれ、学生の本分を疎かにしているように映るのだ。違うか」
「うんうん!確かにな!」
 スコールが叱られる原因を作った張本人は腕を組み脳天気に頷いた。ちなみにバッツの学業成績といえば、毎回ティーダとワーストを争っている。
「あ、あのさライト。スコールは今度のカード大会があるから何かと忙しくて……だから、今回のテストも彼なりに努力した結果の点数なんじゃないかな」
 肘をつき完全にふてくされたスコールを見て、セシルが慌ててフォローを入れた。
「そうなのか、スコール」
 品行方正の優等生であるセシルにそう言われては、ライトも耳を傾けずにはいられなかった。余談だが、もちろん彼はセシルが夜になれば部屋を抜け出し朝帰りをしていることなど知らない……。
 ライトに呼びかけられ、スコールは暫く逡巡して小さく頷いた。
「それならば仕方あるまい。大会に向けて努力することは大切だ。すまなかったなスコール」
「……別に」
 呆気なく謝られ手持ち無沙汰になったのか、スコールはテーブルに散らばったカードを手元に集め、向きを揃えはじめた。その場がシンと静まり返り、何とも言えない微妙な空気に包まれ、耐えられなくなったフリオニールが口を開いた。
「そ、そう言えばレアカードは集まってるか?スコール」
「レアカード自体は沢山持ってる。ただ強力とは言えないデッキだ……カードの数字には隠された法則があって実はセイムなどになりやすい数字の並びが存在する。俺の持ちカードにはその法則に当てはまる神カードがない」
 急にハキハキ喋り出すスコールを横目に、バッツはくっくっと腹を押さえながら笑った。スコールはこれだから面白い。バッツが彼と何かと連みたがる所以が、この辺りにあるらしい。
「レアカードか。役に立つか分からないけど僕たちで良かったら手伝うよ」
「そうだな。我々も協力しよう」
「……本当にいいのか?後悔しないか」
 スコールが顔を上げ、念を押すようにして皆を見渡す。
「もっちろん!何でも言えよ!フリオニールもいいだろ?」
「ああ、もちろんだ」
 バッツとフリオニールがうんうん頷くと、スコールは俄かに立ち上がり、横にいたバッツの二の腕を掴んだ。驚く彼を後目に幼い少年のように目を輝かせたスコールは、「じゃあ早速来てくれ!」といつになく爽やかに言うと、バッツを連れ猛スピードで訓練所に向かって行った。


***



「さあ始めるぞ。誰からやる」
「待て待て待て!スコール、何する気なんだよ!」
 訓練所に到着するなり、上着を脱ぎ捨て戦闘体制に入ったスコール。彼に無理やり引っ張られて来たバッツと、その後ろを追いかけて来たセシル達は、突然ガンブレードを抜いたスコールを見て慌てふためいた。レアカード集めに協力するのと、訓練所で戦うことには何ら接点を見いだせない。カードに疎い4人には“強い相手からカードを生み出す魔法”など心得ている筈もなく、スコールの意図が分からなかった。
「……何だ、知らないのか。強いヤツと戦って一定以上のダメージを与えた所で“カード!”と唱えると、強力なカードが生まれるんだ。俺はてっきりお前達のカードを精製させてくれるのだと思ったんだが」
「ああそうだったのか。いきなり戦え!って言われてびっくりしたぜ。しっかし“カード!”ってそりゃまた単純な呪文だなあ」
 スコールによると大会に持ち込めるカードの枚数は9枚だという。仲間の為だからと多少痛いのは我慢してカード精製に協力することになったが、この場にいるスコールを除いた4人以外の人選をどうするかをまずは話し合わなければ。残りのSeeDといえば、オニオン、ティナ、クラウド、ジタン、ティーダだ。しかしティナ相手に一方的に痛めつけるわけにはいかないとスコールが申し立てたので、ひとまず彼女は除外した。8人は確定だとすると残りは1人だ。そう言えばスコール自身のカードはないのかとセシルが問うと、彼は気まずそうに、父親が持っていると答えた。
「あと1人か……強くて、かつスコールが気兼ねなく戦える相手か……」
「あっ、ゴルベーザは?あいつなら協力してくれそうじゃん」
「何言ってるの、駄目に決まってるじゃないか」
 バッツの提案を華麗に切り捨て、セシルがにこりと微笑んだ。その美しい笑顔にただならぬ威圧感を感じたフリオニールは、まだ何か言いたげな雰囲気のバッツを見て、話をそらすため別の教師の名前をとっさに挙げた。
「皇帝はどうだ!アイツなら仲間じゃなくても遠慮なくやれるだろ?」
「ああ、確かに……」
「アイツならどうでもいいや」
「そうだね」
「決まりだな」
 フリオニールの提案に、皆は即座に賛同した。皇帝ことマティウスはSeeD担当の教師である。天上天下唯我独尊の彼は自分の前世が皇帝に違いないと思い込んでいるようで、教師の権限を振りかざし生徒達に自らを皇帝と呼ばせている。ガーデン1の痛い教師と影では囁かれているが、顔だけは整っているため女子生徒の中には彼のファンもいるらしい。物好きはどこにでも存在するのだ。
 提案に特に乗り気だったのがセシルだ。不幸にも皇帝に目を付けられてしまったセシルは、しばしば彼のセクハラに遭っていた。少し前まではティナにしつこくつきまとっていたようだが、自称ティナのナイトであるオニオンにロリコン親父呼ばわりされたのが利いたらしく、ターゲットを変更したのだ。授業の際は必ずセシルを指名し、わざと難題を振りかけセシルの困った顔を見て楽しんだり、実地訓練では指導とは名ばかりのボディタッチ三昧。クラウドを付け回し嫌がらせを仕込む変態教師と名高いセフィロスといい、このようにガーデンには人間性に問題がある教師が多数存在するのだが、彼らの実力だけは確かであり、理事長のシャントット曰わく教師の採用基準は“強いか弱いか”、ただその一点に尽きるらしい。
「とりあえず皇帝からカードにしてきたらどうだ?俺達はいつでも協力できるけど、アイツ夜になるとどっかのバーに飲みに行くらしいぜ」
「分かった。行くぞバッツ」
「待てって!何で俺まで――」
 有無を言わさずバッツを連れてスコールは訓練所を後にした。 一時間ほど経った時、再び食堂で自習をしていたセシル達の耳に、ウボァーという絶叫が微かに聞こえたような気がした。









※その後開かれたカード大会ではもちろんスコールが優勝しました。


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