3


 なんだか長い悪夢を見ていたような気がする。セシルはうっすらと目を開き、辺りをそっと見回した。窓から差し込む陽射しの眩しさに目を細める。
「朝か……」
 おもむろにベッドから体を起こす。服を着ていないことに驚いた。何故だと思った瞬間、昨夜のことを思い出す。ぞくりと肌が粟立ち、思わず自分の体を抱き締めた。
 不意に枕元に置かれた2枚の紙が目に入る。慌てて手に取り、一通り眺めてから勢いよくそれらを破った。やり場のない怒りをぶつけるように、花びらの大きさになるまで乱暴に破り続ける。たった2枚の写真のために、あんなことを――。悔しくて涙が溢れる。長年信頼していたベイガンから受けた仕打ちは、肉体面だけではなく精神的にも傷付けられた。セシルは生まれて初めて兵の訓練を休んだ。今日は誰とも会いたくなかった。しかしシャワーを浴び、鏡の中の自分を見て息を呑んだ。どのみち外出などできる状態ではなかったのだ。首筋から胸元に付けられた沢山の赤い跡は、虫さされやアレルギーでは言い訳しきれない量だった。
「……もう終わったんだ。忘れよう……」
 椅子に腰掛けカップに注いだホットミルクをすすりながら、自分に言い聞かせるように一人ごちる。カインには申し訳ないことをしたが、他に方法がなかったのだから仕方ない。とにかく今後は、二度と脅迫の材料を作らせるような迂闊な行動は避けなければ。後悔しても失われた時間は永遠に返らない。前向きに、先のことを考えるようにとセシルは努めた。ともすれば昨夜の陵辱が脳裏に浮かび、様々な負の感情が沸き上がってくるからだ。
 一刻も早く記憶を抹消してしまうため、ベッドシーツを引き剥がした。それを黒いごみ袋に押し込み、ダガーと羽根ぼうきも一緒に入れて上部を固く結わえつける。山奥に捨てに行こうかと考えたが、今日はそんな体力も気力もなかった。袋を部屋の片隅に寄せ、視界に入らないよう上から布で被せておいた。
 何をする気にもなれず、新しいシーツに取り替えたベッドに飛び込む。天井の黒ずんだ一点を見つめるうち、いつの間にか意識を手放していた。再び目を覚ました時、夕方になっていた。そんな風に寝たり起きたりを繰り返し、一日が過ぎていった。
 翌日は朝から訓練に参加した。同期の兵士に風邪は治ったのかと尋ねられ、苦笑いを浮かべ頷く。隊員の体調管理に人一倍神経を遣う上官が、セシルが病み上がりなことを気にして今日は訓練を一足早く切り上げるように指示を出した。上官の命令は絶対であり、セシルは素直に従った。あんなことがあったばかりだったから、自分に向けられた心遣いが嬉しくもあった。
 西の塔の階段を登りきったところに世話係のおばさんが立っていた。彼女は柔らかな笑みを浮かべ、セシルの側に駆け寄ると白い封筒を差し出してきた。
「訓練お疲れ様です。お手紙が届いてましたよ」
「ありがとう。誰からだろう?」
「カインさんみたいですよ。お名前が書いてあるでしょ」
「本当だ。何かな」
 彼女の前で封を開く。中に入っていた1枚の紙を取り出し、セシルは目を見開いた。さっと封筒の中に戻し、肩からかけていた鞄に素早くしまう。心臓の鼓動が早まる。息が苦しくなってきた。
「どうされたんです?」
「……いや、何でもない。えっと……あの、僕ちょっと風邪気味だから……これで失礼するよ」
 セシルは彼女を置いて自分の部屋に駆け込んだ。鞄から封筒を取り出し、中に入っていた写真を震えた手でつまみ出す。
「……何だ……これ……」
 後ろ手に荒縄で拘束され、腰を高く抱え上げ後ろから男の一物を受け入れている自分の姿が映っていた。彼の顔こそ映ってはいなかったが、ベイガンが撮影したのだと確信する。こんな縄に見覚えがないことから、気を失った後も彼に好き勝手されたのだと思うと気味が悪く、吐き気がした。セシルは部屋を飛び出してベイガンの元に向かった。彼は近衛兵の宿舎には住まず、自身の屋敷で生活している。町の中心に位置するベイガンの自宅に着くと、ノッカーで何度も重厚な扉を叩いた。程なくして中から姿を現したベイガンがセシルの手を引き、素早く中に引き込まれた。
「随分と乱暴ですね。一体どうされたんです」
「……白々しいことっ……」
「とりあえずこちらに来なさい。いい紅茶が手に入りましてね」
 緊張した面持ちで彼の後ろをついて行く。最奥にある広い寝室に招かれ、セシルはベイガンににじり寄った。
「……ベイガン!どういうことだ!」
「何のことです」
「あんな……あんな写真……!しかもカインの名前を使うなんて……悪趣味にも程があるだろ!」
「それは残念。お気に召して頂けませんでしたか」
「ふざけるな……どうしてこんなことするんだ!」
 ベイガンはベッドに腰掛け足を組んだ。入り口の前で立ちすくんだセシルを見やり、人差し指を立てる。
「1週間でいいんです」
「何だと?」
「まだ7枚残ってるんです。あなたが被写体の写真」
「なっ……」
「カメラは10枚撮影可能だ。うち2枚は先日あなたにお渡ししました。そして本日1枚をあなたの元に送りました。残りは7枚というわけです。だから1週間だけ私の物になってください。1日1枚、写真をあなたにお渡しします」
「……嫌だと言ったら」
「もちろん写真は公表します。好奇の目に晒されたあなたは“ベイガンに無理やりレイプされたのだ、そんな目で僕を見ないで”とでも泣きながら訴えればいい」
 そんなことできるはずがない――ベイガンはそれを分かっていて言っているのだ。あの時、自分はどうして気を失ってしまったのだ。こんなことになると分かっていたのなら、何があっても意識を手放したりせず必死に耐え抜いたのに。セシルは唇を噛み締めた。
「ベイガン……僕はずっと……君を信頼してたのに……」
「何を仰る、これからも信頼して下さって結構ですよ。約束はちゃんとお守りします」
「……1つだけ聞かせて欲しい。どうして、僕にこんなこと……」
「あなたがあまりに素直で可愛いものだから、天の邪鬼な私はつい意地悪をしてやりたくなるんですよ。ただそれだけです」
「今度こそ……本当に解放してくれるのか?」
「もちろん、7枚の写真に対する対価さえ頂ければね」
「……分かった。でも、カインには言わないで……」
「言うわけないでしょう。逆上した彼に殺されたくありませんからね。さあセシル殿、こちらに」
 ベイガンに抱き寄せられ、服をするりと脱がされていく。彼のキスを受け入れながら、手をぐっと握り締め、込み上げる嫌悪感に必死に耐えた。セシルにとって悪夢の一週間が始まった。
 ベイガンは毎日場所を変えてはセシルを呼び出した。バロンの各地に、彼に抱かれた記憶が刻まれていくようだった。4日目の昼過ぎ、セシルは近衛兵の事務室に向かった。中に入ると、ベイガンが横長の事務机で書類に何かを書き込んでいる所だった。
「5分遅刻ですよセシル殿」
「午前の訓練が長引いて……」
「それは私には関係のないことです。さあ、こちらに来なさい」
 机を横切り、椅子に腰掛けるベイガンの前に回り込む。今日は何をするのだろう。昨日は城の隠し部屋に連れ込まれ、壁を挟んで大勢の兵士達がいる場所で犯された。セシルは不安げに彼を見つめた。
「そこの机に腰掛けて下さい。冊子や書類はどかしますから」
 何もなくなった机にそっと腰を乗せる。今まで椅子に座っていたベイガンが立ち上がり、目の前に迫ってきた。反射的に顔を背けると、顎を掴まれ口付けられる。口腔内を彼の舌が這いずり回り、息が苦しい。机上に上半身を押し付けられた。履いていた隊服のズボンを下着ごと抜き取られ、下肢がひんやりとした空気に晒される。両足首を掴まれ、左右に開かれるとねっとりした視線を感じた。初めはそんな場所を見られることに対して羞恥の念に駆られていたが、今ではすっかり慣れてしまった。全ての感情を押し殺し、時間が過ぎることだけを考えた。
 ベイガンのものが中に押し入ってくる。うっとセシルは小さく呻いた。彼はいつも挿入した後、なかなか動こうとはしなかった。じっとされれば、自分の中でペニスが脈打っているのが嫌でも分かる。それが狙いなのだろう。
「はあっ、んんっ、んっ、あっ」
 肉と肉がぶつかり合い、不快な音が部屋中に響き渡る。太ももを押さえつけられ、体を強く揺さぶられるうち、ベイガンの息が段々荒くなってきた。中に入っているそれが一層重量を増したように思った瞬間、達した証を自分の中に放たれた。暖かいものがじんわりと広がっていく。繋がったまま、ベイガンはセシルの体を勢いよく抱き上げた。思わず彼の首にしがみつくと、ベイガンは椅子に腰掛けセシルを上に跨らせた。体をそっと持ち上げられ、ぬるりとペニスが中から抜け出る。太ももに精液が零れてきた。
「ああっ……」
「セシル殿。そのような健気な声を出してくださるのは嬉しいんですがね……今から一切喋らないで下さいよ」
「えっ……?」
 後ろでコンコンと音が鳴る。誰かが事務室を訪ねてきたようだった。ベイガンはセシルを床に下ろし、机の下に隠れるよう小声で言った。腰掛けている椅子を机の方に引き、剥き出しのものを指差し、セシルの後頭部を掴んで股間に強く引き寄せてくる。
「どうぞ、お入り下さい」
 ベイガンの狙いが分かった。とことん悪趣味なことをする男だ。それでも自分は従うしかないのだと言い聞かせ、机の下にぺたりと座り込んだまま、先端を舌で舐めた。手のひらで下の二つのものをさすりながら、裏筋に口付けていく。
「ベイガン。来月の予算編成についてだが……」
 頭上から聞こえた声に、セシルは全身が固まった。ひどく聞き慣れた声だった。目尻に涙が溢れてきた。
「ご不満ですか?カイン殿」
「いや……まあいいだろう。俺達はどこかの兵団のように無駄金はたいて最新の武器を手に入れて、自分自身が強くなったと勘違いしてるような連中とは違うからな」
「そうですか、それは何より。飛竜が絶滅した今、竜騎士団とは名ばかりの集団だと一部からは揶揄されているようですし、心配していたのですよ」
 2人の会話を聞きながら、セシルは震えが止まらなかった。カインの声が聞こえるたびに、この場から飛び出してしまいたくなる。
 動きの止まったセシルの頭をベイガンが掴んできた。口の中に立ち上がったものを不意打ちで押し込まれ、苦しさのあまり小さく声を漏らしてしまう。
「……ん。いま何か言ったか?」
「いえ、勘違いでしょう。そういえばカイン殿、親友のセシル殿はお元気ですか」
 ペニスを喉の奥まで押し込み、頭を揺さぶりながらしれっと自分の話題を持ち出したベイガンが恨めしい。セシルは声を必死に押し殺した。口の中一杯に埋まったそれを舌で舐め回し、心の中では何度となくカインの名を呼ぶ。
「セシルは忙しいらしい。今週はまだ会ってないな。それがどうかしたのか?」
「いえいえ。唯一無二の友と巡り会えることなどそうはない。……大切にしてあげて下さい」
「余計なお世話だ。失礼する」
 彼が辞去した後、全身から力が抜けていくようだった。床に両手をつき、涙を流すセシルの腕をベイガンが引っ張り上げる。
「セシル殿、よく我慢しましたね。ご褒美に今日はこれで終わりましょうか」
 ベイガンが引き出しの中から例の写真を取り出し、手渡してきた。セシルはそれを素早く奪い、脱がされたズボンをおざなりに履くと彼から逃げるようにして事務室を出た。近くのトイレに駆け込み、水道水で口の中を洗い流す。鏡の中にいる涙でぐちゃぐちゃの自分を見つめ、あと3日だ、辛くても耐えるんだと繰り返して言う。しかし先ほどのカインの声を思い出し、再び涙が流れ出てきた。セシルはその場にしゃがみ込み、強く体を抱き締めた。
 7日目の夕方。セシルは再びベイガンの屋敷を訪ねた。先日のように寝室に通され、中に入るなり服を全て脱ぐように言われた。ベッドに体を張り付けられ、同じく全裸になったベイガンが上からのしかかってくる。セシルの頬を撫でながら、いつもの丁寧な口調で彼が言った。
「今日であなたを抱けるのも最後ですから、少し趣向を変えてみましょう」
「……何するんだ」
「セシル殿の方から求められたいんですよ。……あなたがカイン殿にしていたように」
 ベイガンが耳に舌を差し入れてくる。ぴちゃ、ぴちゃと音を立てて舐め回され、セシルの顔が朱に染まる。
「ほら、セシル殿。私の首に手を回して下さい」
 セシルは投げ出していた両手を躊躇いがちにベイガンの首にかけた。まるで自分から彼にすがりついているような体勢になる。もっと強く抱き付くよう求められ、ベイガンの首をぎゅっと抱き締め、胸元に顔をうずめた。こんなことしたくないのに――そう思いながら目を閉じて彼の体に密着する。その時、何かの物音がした気がした。周りに視線を這わせたが、特に変化は見あたらなかった。風の音か何かだろうか。
 ベイガンの立ち上がったペニスが腹に当たり、ゆるゆると肌に擦りつけてくる。その間もセシルはベイガンにしがみついたままだった。後頭部に手を回すよう言われ、素直に従う。彼が乳首を吸い上げ、舌先で転がされると否が応でも体中が熱くなった。やがて挿入された後、今度はベイガンの肩にしがみついた。彼はセシルの髪をいじりながら、荒い吐息混じりに言った。
「私は動きませんので、あなたが腰を動かして下さい」
「……そんなの、できない……」
「やるんですよ。解放されたいんでしょう」
 セシルは観念し、自分から腰をうねらせた。ベイガンが歓喜に打ち震えるような声で呻く。自ら動くとなると、無意識に自分にとって最も楽なやり方をしてしまう。まるで後ろを使って自慰をしているかのようだった。雁首が腸壁を擦るたび、甘い吐息を漏らしてしまう。しかしそんな自分を戒め、とにかくベイガンをいち早く絶頂に押し上げるため、自分にとって多少苦痛であっても激しく腰を動かした。
「んっ、あっ、はあっ」
「っ……セシル殿、もう……結構ですっ……」
 セシルに覆い被さり、ベイガンは自分から動き始めた。やがて達すると素早くものを抜き取り、そのままセシルの口に押し込み欲望を流し込んだ。咳き込むことも許されず、出された精液を必死に喉を動かして嚥下していく。またも小さな物音が聞こえた。ペニスから口を離すと粘液が糸を引き、それを指で拭いながら辺りをもう一度見渡した。
「……何か音がしたような気がする」
「ああ、窓の音でしょう。今日は風が強いですしね……建て付けが悪くて申し訳ありません。それよりセシル殿、まだ終わってないんですよ。私の上に跨って下さい」
 胡座をかき、後ろに手をついたベイガンは顎をしゃくった。セシルはおずおずと彼の上によじ登り、両足を開いて跨った。自分から入れて下さい――そう囁かれ、そっと腰を落としていった。先端に入り口が当たるように持っていき、体重をかける。
「あああ……!」
 彼の凶器がどんどん奥に押し入ってくる。思わず腰を浮かせそうになったが、背中に回されたベイガンの手がそうさせてはくれなかった。セシルが全ての体重をかけ、根元までくわえ込むと彼が下から突き上げるように動き始めた。
「あっ、うあっ、ああっ」
「ほら、私に抱き付いて下さい。さっきみたいに」
「んっ……」
 ベイガンの肩に顔をうずめ、背中に手を回してしがみつく。また例の物音が聞こえたような気がしたが、そちらに気が回るような状況ではなかった。
 程なくして中に出された精液が、ペニスを抜かれると同時にどろりと太ももに垂れてくる。セシルはベッドに倒れ込んだ。荒い呼吸を繰り返しながら、あと数回のセックスさえ我慢すれば全てが終わるのだと、ともすれば気を失いかねない自分を必死に奮い立たせる。
 深夜の2時を回ったところで、長い悪夢が漸く終わりを告げた。ベイガンはローブを肩に羽織りながら、部屋の飾り棚に置いてある小さな箱から写真を取り出し、力無く寝そべったセシルの頭先にそれを置いた。
「……契約終了ですね。楽しい7日間でしたよ」
 ベイガンがその場を後にし、セシルはおもむろに体を起こした。その後、一体どうやって城の自室まで帰ったのか分からない。目を覚ました時、写真を握り締めたまま部屋の入り口で倒れていた。
 今度こそ全てが終わった。体が鉛のように重かったが、一刻も早く全ての写真を消し去ってしまいたかった。手の中にある1枚と、机の引き出しにしまい込んでいた7枚の写真を取り出し、セシルは部屋を飛び出した。城門を出て、平たんな土の上に写真を落とし、周辺に落ちていた適当な木の枝を上から被せて火をつける。瞬く間に炎は大きくなっていった。忌々しい記憶が塵となって天に舞い上がっていく。セシルは大きく息を吐いた。やっと、やっと終わったのだ。一気に体中を脱力感が駆け抜け、その場にしゃがみ込んで燃え盛る炎を見つめる。写真の断片さえ残してはならないと、完全に燃やし尽くすために目を凝らした。
 城に戻り、ふと空を見上げた。生憎どんよりした雲り空だが、心は清々しい気分だった。西の塔に向かう途中、何人かとすれ違った。ここ1週間は誰かと顔を合わせるのさえ苦痛だった。後ろめたいことが無くなった今、堂々と挨拶を交わせることが嬉しかった。
「セシル」
 塔の入り口で後ろから呼び止められた。カインの声だった。セシルはさっと自分の身なりを確認した。大丈夫、肌が見える場所には何の痕もついていない――。振り向き、親友の顔を見上げる。
「カイン久しぶりだな。おはよう」
「ああ。お前今までどこに行ってたんだ?」
「……町の朝市に。ポーション安売りしてたから。カインこそどうしたんだよ」
「久しぶりに休みが取れたからお前を探してた。今日は午後から訓練だろ?午前中なら開いてると思ってな」
「ああ……そうだったのか」
 困ったな、とセシルは口元に手をやった。今は部屋には来て欲しくない。どうやって違う場所に連れ出そうかと考えを巡らせていると、ふとカインの手に握られた黒い封筒が目に入った。
「それ……何だ?」
 ああ、とカインが胸に掲げて見せてくる。今朝、家を出る時にドアに挟まっていたらしく、そのまま持ってきてしまったのだと彼は言った。
「差出人の名前がない、ただの子供の悪戯だろう」
「……そう」
「まあせっかくだから開けてみるか。ラブレターかもしれないしな」
「まさか」
 軽口をたたきながら、カインが封筒を破っていく。セシルはその隣に立ち、彼の手元を見守っていた。嫌な予感が溢れ出し、頭の隅で警鐘が鳴っている。まさか、いや、そんなはずない――確かに写真は10枚あった。カメラが10枚しか撮影できないことは自分も調べたから間違いない。大丈夫だ、この封筒はあのこととは関係ない。唾液を飲み込み、気持ちを落ち着かせたところでカインが取り出した紙を覗き込む。見慣れたそれを見た瞬間、どくんと心臓が鳴り響いた。制止する暇もなく、カインがそれをひっくり返す。
 ベイガンの首にしっかり手を回して抱きついている自分の姿を見た瞬間、頭の中が真っ白になった。セシルは意識が遠のいていくのを感じた。
 悪夢は終わってなどいなかったのだ。寧ろこれからが本番なのだと、薄れていく意識の中、ベイガンの高笑いが聞こえた気がした。





END






全国のベイガンファンの方、大変申し訳ありませんでした…!
とにかくセシルを困らせることばかり追求した結果とんでもない話に…。でもそれはそれで楽しかったです。笑
この後の展開は各自お好きなように妄想してやってください^^
リクエスト、ありがとうございました!


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