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 ベイガンは目を細め、眼前の小刻みに揺れる細い肩を見下ろした。他にいくらでも解決策はあるだろうに、自分の要求に対して素直に従うセシルが愛しく、哀れにも思う。多少の駆け引きは想定していたので些か拍子抜けしたが、こうも自分の思い通りに事が運ぶとそれはそれで愉快だった。
 王に紹介され、幼少のセシルを初めて見たあの時から、いずれは自分のものにしたいと思っていた。ずっと彼を目で追っていたからこそ、あの小生意気な竜騎士との関係にも気付いたのだ。ベイガンはセシルの背中に手を回した。逃げ腰になる体を引き寄せ、真っ白の首筋に勢いよく吸いつく。セシルが抗うように頭を押し返してくるのも構わず、当分消えないように強く鬱血痕を残してやる。
「ベイガン、待っ……あの、僕まだシャワー浴びてな……」
「構いませんよ。お気になさらずに」
 むしろその方が羞恥心を一層掻き立てられるため好都合だとほくそ笑む。セシルが嫌がれば嫌がるほど、もっと困らせてやりたくなる。ベッドに体を張り付けると再び彼の待ったがかかった。今度は何かと問うと、セシルは泣きそうな顔を作り、自分に向けて懇願してきた。
「待って、やっぱりせめて場所を変えよう。お願いだ、自分の部屋でこんなことしたくない……」
「何を言うんです、あなたの部屋だからいいんですよ。これから先何をしていても、私とのことを思い出すでしょう?」
 からかい混じりにそう言うと、セシルはかあっと赤面してこちらを睨み付けてきた。もう少し兵士として凄みのある顔は出来ないのかと苦笑する。ベイガンはセシルの耳たぶを甘噛みしながら、やや語気を強めて脅すように言った。
「いいですか、今後は私がすることに二度と逆らわないで下さい。……写真が私の手中にあることをお忘れなく。セシル殿、お返事は」
「……分かったよ」
 躊躇いがちに、しかし従順に言われた通りにするセシルを見下ろし、ベイガンは満足げに頷いた。隊服のジャケットを素早く脱がせ、床に落とす。ふと、セシルの腰元にあったダガーが視界に入った。それを手にし、鞘から抜くと刃先をシャツの裾にあてがう。よく手入れされたそれは、服を切り裂くには調度良さそうな代物だった。セシルの所有物を使って彼をいたぶってやることで、今夜のことをより印象付けることが出来る。わざと大きな音を立てながらシャツをダガーで破っていくと、セシルは桜色の唇を噛み締め辱めに耐えているようだった。
 露わになった上半身を見下ろし、唾を呑み込む。生傷も多かったが、それでも真っ白の瑞々しい肌は吸い付くような感触だった。脇腹を撫で回し、ゆっくりと上に向かって手を這わす。どこもかしこも色素の薄い肌に奥ゆかしく色付いた小さな突起の周辺を指先で弄りながら、何か面白い道具はないかとベッドの周辺を見渡した。やがて製図道具の一種である羽根ぼうきが目に入り、ベイガンは口角を釣り上げた。それを手に取り、柔らかい羽根の先を立ち上がりつつある乳首にあてがい、上下にそっと擽ってやる。びくりとセシルの体が大きく跳ねた。
「やっ……」
「素直におなりなさい。気持ち良いんでしょう」
「っ……この……変態っ……」
「私が?ならあなただってそうでしょう。所詮同じ穴の狢なんですよ、私達」
 赤く充血した乳首を羽根で転がしてやる度にセシルが苦しげな声を漏らす。指で直接触れることはせず、敢えて羽根で表面だけをしつこく弄ると、彼の目尻からは一筋の涙が零れた。それを舌で舐めとり、頬から耳元にかけて口付けを落としていく。羽根の動きを乱暴に早めてやると、セシルの口が大きく開かれ、濡れた舌先が中から覗いた。ベイガンは桜色の唇を自分のそれで塞ぎ、唾液を流し込みながら逃げる舌を追い回した。舌を無理やり絡め取り、手にしていた羽根を手放し、今度は指で直接乳首を弄る。セシルの肩が大きく震え、顔を左右に振り乱した。
「ん……んっ……」
 口腔内を犯すうちに、下半身が熱を増す。ベイガンは口を離すとセシルの体を起こして衣服を強引に引き剥がした。抵抗すれば写真を公表すると先ほど脅したのがよほど効いていたらしく、セシルはされるがままだった。それでも、靴下だけを残して裸にされれば、自分の視線から逃れようと体を捻り、ベッドに小さく縮こまる。健気な仕草はますますベイガンの情欲を駆り立てた。上から覆い被さり、髪に手を差し入れながら項を舐める。すでに立ち上がったペニスを取り出し、彼の太ももの付け根にわざとらしく擦りつけてやると、セシルは耳まで真っ赤に染まった顔をシーツに深く沈み込ませた。
「セシル殿、こちらを向きなさい」
 言われるまま、おずおずと顔を後ろに振り向かせるセシル。次は何をする気なのだと不安げな表情を浮かべ、潤んだ瞳でこちらを見てくる。ベイガンはセシルの前髪を鷲掴んだ。彼の見せる些細な所作が、無性に嗜虐心を煽るのだ。本来ならば情緒的なセックスを好む傾向にあるのだが、セシルを前にすると乱暴で野性的な振る舞いをしてやりたくなる。自分の股間に頭を引き寄せ、口でするよう指示を出し、先端を突きつけた。小さく開かれた口にペニスを一気に押し込んでやり、セシルのつんと尖った鼻を指でつまんだ。
「んっ、んんっ!」
「手も使ってください。できるでしょう?」
 雁首を口に含ませたまま、手での奉仕も強要する。セシルは手のひら全体で竿を握り、躊躇いがちにしごき始めた。それに合わせてベイガンは腰を前後に動かし、自分のそれがセシルの口を犯す様をじっくりと視姦した。唾液と先走りが混ざり合ったものが彼の口端からだらしなくこぼれ落ち、淫猥な光景を眺めるうち、一層興奮が増していく。やがて絶頂に達し、ぶるりと体を震わせながら容赦なく喉の奥に欲望を出してやった。全てを出し切ったところでおもむろに自身を引き抜き、セシルの口を手のひらで塞ぐ。自分が何を意図してるかは分かるだろうといった顔で彼を見下ろし、顎をしゃくる。セシルは戸惑っているようだったが、観念したのか口の中に出されたものをゆっくりと嚥下した。口についた白濁を拭い、苦しげに咳き込むセシルを見つめ、ぞくぞくする程の支配欲に体が震える。もう少し前戯を楽しむつもりだったが、再び首をもたげ始めた自身を今すぐ彼の中に入れたくなった。体を突き飛ばして仰向けにさせ、両足を抱え上げる。男にしては柔らかな尻を揉みしだきながら腰を密着させ、先端をあてがった。体重を落としていくと僅かに侵入を果たしたが、慣らしていないせいかそれ以上奥に進むのは困難だった。セシルが苦痛に顔を歪ませ、かすれた声で弱々しく言った。
「い……たっ……」
「確かにキツいですね。……慣らして欲しいですか?」
 セシルが素直に頷くのを見て、ベイガンは一旦体を後ろに引いた。一刻も早く繋がりたいのが本音だが、不用意に体を傷付ける行為は好まない。細いものから慣らすため人差し指をペロリと舐め、そっと中に押し入れると、白い太ももがびくりと揺れた。
「指1本は余裕みたいですね。せっかくですから何本まで入るか試してみましょうか」
 言った通り、指を1本づつ増やしていく。何とか3本入ったところで関節を折り曲げ中を弄ると、セシルははあっと色付いた吐息を漏らした。カインとのセックスで後ろの刺激に体が慣れきっているのだろうか、指で弄っただけでこの様だ。襲いかかる甘美な感覚に必死に抗っているようだったが、それも長くは続くまいとベイガンはほくそ笑んだ。3本の指を一気に引き抜き、ペニスを今度は容赦なく奥に押し込む。多少きついのを我慢して根元まで挿入し、そのまま暫く動きを止めた。長年抱いていた望みを達成できた悦びに浸りたかった。
「う……」
 セシルは口元に手の甲をあてがい、ベイガンを恨めしげに見つめていた。挿入したままじっとされるのも辛いのだろう、早く動いてと言わんばかりに半泣きの瞳で訴えてくる。律動を始めればもっと自分が追い詰められるだけなのに、セシルはそのことに気付いていない。そんなに動いて欲しいのなら、お望み通りにしてあげましょう――ベイガンは持ち上げていた両足を抱え直し、前後に腰を揺さぶり始めた。
「あっ……待っ……いやだ……」
 内部を深くえぐってやると、セシルは呻きシーツを固く握りしめた。その白い手を引き剥がし、自分達が繋がった結合部に持ってこさせる。顔を赤らめ、慌てて手を引っ込めようとした彼の首筋に噛みつきながら写真のことをちらつかせると、その動きがピタリと止んだ。
「いい判断だ。素直な方は好きですよ」
 出し入れするペニスの根元を撫でるように言うと、セシルは羞恥に支配された表情を浮かべ、そっと指先を這わせてきた。味わったことのないような快感の波が押し寄せ、ともすれば達してしまいそうだった。もっと時間を掛けて存分にいたぶってやりたいと思う気持ちと、今すぐにでも絶頂を迎え欲望をぶちまけたいと思う気持ちが交互に主張を繰り返している。しかし不意にセシルが呟いた一言で、後者の欲求が一気に押し上がってきた。
「……カイン……」
 無意識だろうが、虚ろな目で恋人の名前を呟くセシルを見下ろし、今目の前にいるのはあの少年ではない、自分なのだと強く分からせてやりたくなった。カインの生意気な顔を思い出し、ベイガンは小さくチッと舌打ちした。目が合えば敵意剥き出しの顔を作り、年下にも関わらず会釈の一つもしてこない、いけ好かない竜騎士の少年。鋭い彼のことだから、自分がセシルに抱いている邪心に気付いていたのかもしれなかった。それが一層気に食わなかった。
 しかしカインは今こうして、大切な存在であるセシルが自分に蹂躙されていることを知らない。そう思うと興奮が増し、自然と腰の動きが早まった。ベイガンは快感を集めることに集中した。
「う……んんっ……あっ……」
 セシルの漏らす呻き声がより体の芯を熱くさせる。声も記録できたら良かったのにと頭の片隅で考えながら、いつの間にか絶頂に達していた。腰をぴったり密着させ、内部に精を注ぎ込む。全て出し切ったあともペニスは抜かず、セシルの震える体を抱き締めた。
「……も……抜い、て……たの……から……」
 涙混じりの声でそう言われる。こうも健気な態度を取られると、もっと意地の悪いことをしてやりたくなる。とはいえ挿入したままではこちらが持たないのも事実で、ゆっくり腰を浮かせると繋がっていた場所から粘液の糸が一筋引いた。中で出したものが溢れだし、尻の間を通ってシーツに染みを作っていく。その様子を目を細めて眺め、愛しいセシルを自分の手で汚してやったのだという征服感に体がぶるりとうち震えた。情事後の倦怠感さえ吹っ飛び、どす黒い欲望が未だ自分の中に渦巻いているのを感じる。満足するにはまだまだ足りない――ほとんど意識を手放しかけていたセシルの濡れた頬を軽く叩き、無理やり覚醒させる。
「起きなさいセシル殿。これからですよ」
「っ……もう、無理だ……」
「カイン殿とは何回もしてたじゃないですか。それに年若いあなたの方が私よりよほど体力に優れてる筈ですよ。……何なら試してみましょうか」
 セシルの体をひっくり返し、尻だけを抱え上げ猫が間延びするような体勢を取らせる。ベイガンは自身を手のひらで軽く扱き、やがて固くなったそれの先端を入り口にあてがった。セシルが小さな悲鳴を上げ、シーツに顔をこすりつける。柔らかな銀糸の髪が周りに散らばり、その一房を手に取り感触を楽しみながら、もう片方の手で腰元をしっかり掴んだ。
「簡単に気を失わないで下さいよ。張り合いがなくなりますから」
「んっ、あっ、うああっ」
 卑猥な水音を立てながら、先ほどより幾分楽に挿入を果たす。奥に押し込んだ自身を一気に引き抜き、腸壁をめくり上げる。時折、セシルの肩がびくりと反応する場所があった。そこを敢えて避け、叩き付けるように腰を激しく動かした。彼を気持ち良くしてやるのは二の次で、僅かな快感だけを与え続け、もどかしさに苛む姿を楽しみつつセシルの全てを支配するのが目的なのだ。
 ペニスでねちっこく突いてやるその度に先ほど中に出した精液が攪拌され、入り口まで逆流してくる。セシルの白い太ももを伝い幾筋もの軌跡を描いてシーツに滴り落ちているそれを指に取り、彼の胸元をまさぐって乳首に塗りつけてやる。そうする間も律動は止まらず、程なくして再び絶頂に達した。今度は違う場所に出してやろうかとも考えたが、快感が強すぎて動けなかった。結局中に精を吐き出し、根元を押さえながらおもむろに抜き取ると、セシルの体がどさりとシーツに崩れ落ちた。どうやら気を失ったようだった。
「……仕方のない方だ」
 そう言いながら、ベイガンはふっとシニカルな笑いをこぼした。予定よりも些か早いが、どのみちいずれは無理やりにでも失神させるつもりでいた。仰向けにさせたセシルの寝顔に口付け、ベッドから降りる。鞄から取り出したものを見下ろすと、無性に笑いがこみ上げてきた。


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